プレコンセプションケアについて(治療について)
プレコンセプションケアについて
目次
1. プレコンセプションケアとは?
未来の妊娠や健康を見据えた新しい医療ケア
プレコンセプションケアとは、「妊娠前から女性と男性の健康状態を整え、将来の妊娠・出産・育児をより安全で健康的なものにするための総合的なヘルスケア」です。
近年、日本でも“妊娠前の準備医療”として注目されており、妊娠を予定しているカップルだけではなく、将来いつか子どもを望む可能性のあるすべての若い世代に必要なケアと考えられています。
プレコンセプションケアの定義と目的 — 妊娠前の健康管理が未来の安心につながる
プレコンセプションケアの目的は大きく3つに整理できます。
1 健康な妊娠・出産を実現するための準備
2 妊娠に影響を与える疾患・生活習慣の早期発見と改善
3 将来の家族計画を見据えた身体と心のセルフマネジメント
妊娠は突然訪れるイベントではなく、日々の健康状態が土台となって成り立ちます。
例えば、貧血・甲状腺疾患・生活習慣病・性感染症などは自覚症状が乏しくても妊孕性に影響し、妊娠合併症のリスクを高めます。
そのため、妊娠前からの健康管理は、「未来の妊娠を守る医療」であると同時に、**今の自分の健康を守る“生涯医療”**としても位置づけられています。
厚生労働省によるガイドライン — 国が推奨する妊娠前の健康づくり
厚生労働省はプレコンセプションケアを重要施策として位置づけ、以下の項目を重点的に推奨しています。
- 生活習慣の改善(食事・運動・睡眠)
- 適正体重(BMI)の維持
- 葉酸の適切な摂取
- 喫煙・飲酒の制限
- 感染症の予防(風疹・麻疹・水痘・性感染症など)
- 慢性疾患の治療とコントロール
- メンタルヘルスケア
これらは、妊娠後に慌てて行うよりも、妊娠前に整えておくことで母体の負担を大きく軽減し、胎児の健康にも直結します。
東京都のプレコンセプションケア施策 — 全国に先駆けた支援強化
東京都は全国でも積極的にプレコンセプションケアを推進している自治体です。
特に注目されているのは、
- 妊娠前検査への助成制度(令和7年度より拡大予定)
- 若年層向けの啓発教材・講座の実施
- 医療機関との連携による相談体制の整備
- 風疹抗体検査・予防接種の促進
これらの取り組みによって、東京都内では費用負担を抑えて妊娠前の健康管理に取り組める環境が整いつつあります。
今後は検査項目の拡充や相談窓口の強化が期待され、若い世代の健康づくりがより身近になると考えられています。

🌟東京都プレコンセプションケア助成金についてはコチラ
男女ともに知っておくべき知識 — 妊娠は“ふたりの健康状態”で決まる
妊娠は女性だけの問題と思われがちですが、近年では「男性の健康」が妊娠率と出生児の健康に大きく関与することが明らかになっています。
〈女性が知っておくべきポイント〉
・卵子数は年齢とともに減少
・月経不順・排卵障害は生活習慣やストレスとも関連
・甲状腺疾患や貧血は妊娠に影響
・風疹・性感染症などは妊娠中の重大なリスクに
〈男性が知っておくべきポイント〉
・喫煙・飲酒は精子の質を低下させる
・肥満は男性ホルモン低下の要因に
・高熱・ストレス・睡眠不足は精子形成に影響
・性感染症は妊娠成立の妨げになる
つまり、プレコンセプションケアは “男女で取り組む妊娠前の共同プロジェクト” といえます。
プレコンセプションケアが妊娠に与える影響 — 妊娠しやすさと赤ちゃんの健康を高める“未来投資”
妊娠前の健康状態は、そのまま妊娠のしやすさ・妊娠経過・胎児の健康に反映されます。
● 妊娠しやすさを高める
生活習慣改善や適正体重の維持は、排卵・受精・着床に好影響を与えます。
● 妊娠合併症の予防
・妊娠高血圧症候群
・妊娠糖尿病
・早産
・胎児発育不全
これらは妊娠前からの対策が非常に効果的です。
● 胎児の健康リスクを軽減
葉酸摂取、感染症予防、慢性疾患のコントロールにより、胎児の先天異常や感染リスクを減らすことができます。
● 出産・産後の健康にも好影響
妊娠前の健康状態が良いほど、産後の回復も良好で、育児への移行がスムーズになります。
プレコンセプションケアは“いまの自分”と“未来の家族”を守るケア
プレコンセプションケアは、妊娠を特別に意識していない時期から始められる「未来への健康習慣」です。
身体を整えておくことで、妊娠のしやすさだけでなく、将来の出産や子どもの健康、さらには自分自身の生涯健康にも良い影響をもたらします。
東京都をはじめ、自治体や医療機関のサポート体制も整いつつあり、これからますます身近なケアとなっていくでしょう。
妊娠を計画している方はもちろん、いつか子どもを望むかもしれない方も、今日からできる“未来の準備”として、プレコンセプションケアを日常に取り入れてみませんか。
2. なぜプレコンセプションケアが重要なのか
妊娠は「準備」で大きく変わる
妊娠・出産は、女性の身体にとって非常に大きな生理的イベントです。しかし多くの人は妊娠してはじめて健康状態に目を向けがちで、妊娠前に潜むリスクに気づいていないことも少なくありません。
プレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)は、将来の妊娠をより安全で健やかなものにするための準備医療であり、妊娠前から健康を整えることが「予防」そのものになります。
以下では、プレコンセプションケアがなぜ重要なのかを4つの軸から整理し、医学的根拠に基づいて解説します。
将来の健康な出産に向けて — 妊娠は“妊娠前”から始まっている
妊娠中に起こる多くの合併症は、実は妊娠前の健康状態と深く関係しています。
代表例として、
- 妊娠高血圧症候群
- 妊娠糖尿病
- 早産・流産
- 胎児発育不全
などが挙げられます。
これらは、肥満・高血圧予備群・糖代謝異常・甲状腺疾患・貧血など、妊娠前から存在していた健康問題が顕在化した結果である場合が多く、妊娠後に慌てて対応するのでは手遅れになるケースもあります。
妊娠前に健康状態を整理し、必要な治療や生活改善を行っておくことは、母体だけでなく赤ちゃんの“健康の土台”を作る重要なプロセスです。
特に、初めての妊娠を迎える女性にとって、プレコンセプションケアは安心して妊娠を進めるための大きな支えになります。
生活習慣と妊娠への影響 — 良い習慣が妊娠力(妊孕性)を高める
日々の生活習慣は、ホルモンバランスや卵子・精子の質に直結します。
特に以下の習慣は、妊娠のしやすさに強い影響を与えます。
● 食生活
栄養バランスの乱れは、排卵不順・ホルモン乱れ・卵子の質低下につながります。
葉酸、鉄分、ビタミンD、オメガ3脂肪酸などは妊娠前から重要です。
● 運動習慣
適度な運動はインスリン感受性を改善し、代謝を整え、排卵リズムを安定させます。
● 喫煙
男女ともに妊孕性を大きく下げる最大リスク。
卵子の老化促進、精子DNA損傷、流産率上昇などが明らかになっています。
● 飲酒
胎児性障害のリスクがあるため、妊娠を考え始めた時点で控えるのが理想です。
● 睡眠
睡眠不足は自律神経の乱れ、排卵障害、男性ではテストステロン低下につながります。
プレコンセプションケアは、生活習慣を医学的視点で整えることで、自然妊娠率を高め、治療が必要となるケースを減らす重要な手段です。
不妊の原因とその予防法 — 早期の気づきが未来を守る
不妊の原因は多岐にわたりますが、妊娠前に確認しておくことでリスクを減らせるものが多くあります。
● 女性の主な原因
・加齢による卵子の減少
・排卵障害(PCOSなど)
・卵管障害(性感染症による炎症や詰まり)
・子宮内膜症や子宮筋腫
・甲状腺機能異常
・極端な肥満・痩せすぎ
● 男性の主な原因
・精子数・精子運動率の低下
・喫煙・飲酒
・肥満
・睡眠不足・ストレス
・精索静脈瘤
・性感染症
これらの多くは、妊娠前の検査と生活改善によって、予防または早期治療が可能です。
特に性感染症は“自覚症状がない”まま進行し、不妊の原因となることが多いため、妊娠前のチェックが必須といえます。

⇑不妊の原因についてQ&Aで詳しく解説しています。
ストレス管理と妊娠のリスク — 心の状態がホルモンに反映される
妊娠とストレスは密接に関わっており、強いストレスは以下のように妊娠の成立を妨げます。
- 自律神経の乱れ
- 排卵障害
- 月経不順
- 睡眠の質の低下
- 男性のテストステロン低下
- 精子形成の阻害
また、慢性的なストレスは暴飲暴食や喫煙・睡眠不足を誘発し、さらに妊娠しにくい状態をつくってしまいます。
プレコンセプションケアでは、以下のような心のケアも重視されます。
・適度な休息や趣味の時間
・睡眠習慣の改善
・運動によるストレス発散
・パートナーとのコミュニケーション
・必要に応じて医療機関での相談
“心の健康”は“体の健康”と同じくらい妊娠に影響するため、精神的なゆとりをつくることも重要なケアの一部です。
プレコンセプションケアは「未来の健康」と「妊娠の安心」を守る最強の予防医療
プレコンセプションケアが重要とされる理由は、
妊娠は妊娠した瞬間から始まるのではなく、妊娠前の生活や健康状態によって成り立つプロセスだからです。
- 妊娠のしやすさ
- 妊娠中の合併症リスク
- 胎児の健康
- 出産・産後の回復
- 将来の家族の健康
すべてが“妊娠前”にスタートしています。
だからこそ、今日からできる小さなケアが、未来の大きな安心につながります。
3. プレコンセプションケアの具体的な方法
妊娠前の身体づくりは「日常の積み重ね」から
プレコンセプションケアでは、特別な治療だけでなく、妊娠前に何を整えておくと健康な妊娠につながるのかを明確にすることが重要です。
ここでは、誰でも今日から取り入れられる“妊娠前の具体的な整え方”を、医学的根拠に基づきわかりやすく解説していきます。
健康診断を受けるべき理由 — 見えないリスクを妊娠前に把握する
妊娠は健康状態に大きな変化をもたらすため、妊娠前に「現在の体の状態」を把握しておくことが極めて重要です。
特に女性の場合、以下の疾患は妊娠中に悪化しやすく、妊娠経過に大きく影響します。
- 貧血(鉄欠乏)
- 甲状腺疾患(特に潜在性の異常)
- 高血圧予備軍
- 糖代謝異常(妊娠糖尿病のリスク上昇)
- 性感染症(クラミジア・梅毒など)
これらは自覚症状がほとんどなく、妊娠して初めて発覚するケースも多い問題です。
妊娠前に健康診断を受けるメリット
✔ 妊娠の妨げとなる原因を早期に発見できる
✔ 妊娠中の合併症を予防できる
✔ 安心して妊娠を迎えられる
✔ 治療が必要な場合、妊娠前に安全に治療できる
特に妊娠前〜妊娠初期は胎児の器官形成が進む時期で、母体の状態が胎児の健康に直接影響します。
だからこそ「妊娠前の健診」が最も重要なのです。
適切な体重管理とBMIの重要性 — “太りすぎ・痩せすぎ”はどちらもリスク
妊娠に適したBMIは 18.5〜25 とされています。
この範囲を外れると、以下のようなリスクが上昇します。
⇑自分のBMIを知るにはコチラ
・痩せすぎ(BMI<18.5)のリスク
・ 生理不順・排卵障害
・ 着床率の低下
・ 早産や低出生体重児のリスク上昇
・ 栄養不足に伴う胎児の成長障害
・ 肥満(BMI≥25)のリスク
・ 妊娠糖尿病
・ 妊娠高血圧症候群
・ 帝王切開率の上昇
・ 流産率上昇
・ 出産後の回復遅延
体重は、“妊娠しやすさ”だけでなく、妊娠中の合併症リスクにも直結しています。
妊娠前にできる体重管理
- 無理のない減量(1ヶ月 −1〜2kg)
- 筋肉量を保つ適度な運動
- GI値を意識した食事
- 甘い飲料・加工食品を控える
妊娠してからの急激な体重調整は危険。
妊娠前から整えることが、最も安全で確実な方法です。
4. 禁煙と飲酒の影響 — “少しだからOK”は医学的に存在しない
プレコンセプションケアの中でも最も重要なのが 禁煙・節酒です。
喫煙・飲酒は、男女ともに妊孕性を大きく下げることが証明されています。
● 喫煙の影響
たとえ本数が少なくても影響は大きく、**“タバコは1本でも妊娠率を下げる”**のが医学的事実です。
【女性】
・ 卵子の老化促進
・ 卵巣機能低下
・ 着床率の低下
・ 流産率の上昇
【男性】
・ 精子の運動率・形態異常の増加
・ DNA損傷
・ 勃起機能の低下
● 飲酒の影響
妊娠初期の飲酒は胎児性障害リスクがあり、妊娠前からの節酒が推奨されます。
男女ともに飲酒はホルモンバランスに影響し、排卵・精子形成に悪影響を与えます。
「妊娠してから気をつける」では遅く、
“妊娠を考え始めた時点”が生活改善のベストタイミングです。
運動と睡眠がもたらす健康効果 — ホルモン・代謝・メンタルが整う
● 運動(週150分の軽〜中等度運動が目安)
・ インスリン感受性の改善
・ 代謝向上による排卵リズムの安定
・ ストレスホルモン抑制
・ 血流改善で卵巣・子宮環境が整う
ウォーキング・軽い筋トレ・ヨガなど、継続しやすい運動がおすすめ。
● 睡眠(7時間前後が理想)
睡眠不足は以下を引き起こします:
【女性】
・ 排卵障害
・ 月経不順
・ ホルモン分泌の乱れ
【男性】
・ テストステロン低下
・ 精子形成の障害
睡眠は「最もコストのかからない妊娠準備」といえるほど重要です。
5. 感染症予防のためのチェックポイント — 妊娠前こそ最も重要な予防医療
妊娠中は薬や治療に制限が出るため、妊娠前に感染症を予防・確認しておくことが必須です。
● 妊娠前に確認したい感染症
・ 風疹抗体(胎児に重篤な影響)
・ 麻疹(重篤化リスク)
・ 水痘(水痘肺炎の危険)
・ B型肝炎・C型肝炎
・ 性感染症(クラミジア・梅毒・HIV など)
・ HPVワクチン接種歴の確認
性感染症は自覚症状がないまま進行し、卵管障害や不妊の原因にもつながるため特に重要です。
● 妊娠前の感染症対策のメリット
✔ 胎児への感染リスクを大幅に低減
✔ 妊娠初期の治療制限によるリスクを回避
✔ 風疹・麻疹など重篤化しやすい感染症を予防
✔ パートナーの感染状況把握にもつながる
妊娠を望むすべての人にとって、感染症予防は最も効果の高い妊娠前医療の1つです。
6. “妊娠前の整え方”が妊娠のしやすさと妊娠経過を左右する
プレコンセプションケアは、妊娠する・しないにかかわらず、自分自身の健康を守るための医療です。
生活習慣の改善や健康診断はすべて、妊娠・出産の成功だけでなく、赤ちゃんの健康・パートナーの健康・あなた自身の一生の健康につながります。
妊娠は「準備した分だけ、安全で健康に近づく」イベントです。
今日できることから、少しずつ始めてみませんか?
更新日:2025.12.04
医師紹介
mimiレディースクリニック三越前
院長 産婦人科専門医
干場 みなみ
日本赤十字社医療センター 勤務
国立国際医療研究センター 勤務
リプロダクションクリニック東京 勤務
まきレディースクリニック、biotopeクリニックを経て2023年12月開業に至る。